院長コラム

飲み過ぎ注意!

疾患説明

薬物乱用頭痛(MOH)について説明します。

頭が痛いときに鎮痛薬を飲むのは自然な行動です。しかし、飲み方を間違えていると後日トラブルの原因になります。例えば強い頭痛に見舞われたことがあるために少しでも頭痛が始まるとまたひどくなるのではないかと不安に駆られて早めに薬を飲んでしまうとか、とても重要な仕事や会議、入学試験を控えているために頭が痛くならないようにと予防的に薬を飲んでしまうとか…。気持ちはお察しいたします。しかし、とても大切なことなので外来診療ではいつもこの点を気にして説明を行っています。今回は頭痛に対する薬の飲み方について解説します。

 特徴として

多くの薬物乱用頭痛のパターンとしては飲んでいる鎮痛薬が頭痛によく効くということです。しかし、頭痛がなぜ起こるのかを心配されて外来受診をされます。その問診時に「頭痛はあるけど薬を飲めば治ります。その薬は毎日のように飲んでいます。この薬はいい薬で、よく効くんです。」といわれます。

家事や仕事の最中に痛くなるのが嫌なので、頭痛が始まりそうなときには痛み止めを飲みます。」と言われる人の場合は薬を飲み過ぎてしまう可能性を秘めていますので注意が必要です。
他にも仕事や家事、介護、子育てでとても忙しくて、普段から頭痛があっても日中に病院へ行く時間が取れないためにひとまず頭痛を抑えるために市販薬を飲み続けているとか…薬を飲むと痛みが治まるので、何がいけないのかに気づかないままついついこのようなパターンで内服を続けてしまうのです。

近年では市販薬の痛み止めが手軽に購入できることから頭痛の時に飲んでいる人はとても多いです。ただし、TVのCMのように飲んですぐ効くってことがあると、頭痛のたびに内服することが多くなっていると思います。頭痛外来を受診される人の多くは市販薬を試した経験をお持ちです。これが悪いことではないのですが、飲み過ぎになっている人がいるので注意していただきたいのです。

では、痛いのを我慢しろということでもないのですが、鎮痛薬の飲み過ぎが長く続くこと自体が薬の飲み過ぎによる頭痛を引き起こしてしまいます。

なんだかよくわからないと思われるかもしれませんが、薬物乱用頭痛には気づかないうちに陥っていることがあり、特に気を付けていただきたいのです。

 薬物乱用頭痛の診断基準

注意が必要なのは内服回数ではなく日数で評価を行います。というのも、頭痛が何日あったかが診断基準になっているためです。頭痛があって1日のうちに1回だけ鎮痛薬を内服しても1日、3回鎮痛薬を飲んだ場合でも1日と数えます。1日1回ずつ鎮痛薬を3日間飲んだ場合は3日と数えます。

どのくらいの頻度でこの頭痛が起きているかは統計的にみて住民の1-2%とされており女性に多いです。

 なり易い人は?

MOHになり易い人の特徴は、まず精神的な要素として気分障害を持っている人が典型的になり易いとされます。気分障害とはうつ病または双極性障害のことを指します。また、依存傾向のある人やひどい頭痛の経験がありその記憶から頭痛に対する恐怖心の強い人、頭痛が起こるのではないかとの不安感が強い人になります。さらにその他の要素としては、喫煙習慣と運動不足でMOHになり易いリスクが2倍ほど高くなり、また低所得や教育歴の低さも高いリスクになるとされています。

別の問題として、頭痛に対する知識の少ない医者による不適切な指導や処方もリスクになります。「市販薬の内服を続けるように」とか「緊張型頭痛患者にNSAID内服を毎日するよう指導」、「片頭痛患者にトリプタン系の処方をするも内服指導をしない」、「予防薬を1~2週間のみ処方される」というのが典型的な不適切な指導です。頭痛の専門医による診察をお勧めいたします。

薬剤乱用頭痛になる人は多くの場合で一次性頭痛があり、この頭痛が繰り返し長期間にわたって起こることが原因となって侵害刺激による中枢性感作が起こります。すると痛みを感じる受容体感受性の変化が起こって敏感になり、少しの痛みでもひどい痛みに感じてしまう様に変化してきます。片頭痛や緊張型頭痛の慢性化と同様な変化です。ただし、このMOHの場合は薬を飲み過ぎてしまうことに大きな違いであります。

 薬物乱用頭痛の治療

治療方法は3つの原則に基づいて進められます。

①原因になっている薬の中止 

(代わりとなる)痛い時の薬 

③頭痛の予防療法

原因の薬をやめると離脱症状がでます。離脱症状としては、頭痛に加えて悪心嘔吐、睡眠障害、低血圧、頻脈などが生じてきます。これが出てきた場合の対処としては各々の症状を抑える薬を内服することです。頭痛に対する代わりの薬は違う系統の痛み止めを使いますが、時には漢方薬を併用します。また頭痛の予防薬は中枢性感作を治すためにアミトリプチリンを中心とした片頭痛の予防で使用するものを使用します。離脱症状は通常2日~10日間くらい続きとても辛いのですが、ここが一番重要なところです。まずはこの時期を何とか乗り切ってください。頑張りましょう!

このような離脱療法を進めることで2~6か月で約70%の方が改善するとされています。ただし、油断をするとまた同じような頭痛が始まり、再び原因となった薬を飲み始めてしまう人がいます。このようなことがあるために、治療を始めて一年後には3割の人で薬物乱用頭痛を再発してくるといわれています。

再発してくる危険性として言われていることがいくつかあります。まずは元となった頭痛が緊張型頭痛だったり、オピオイドの使用による薬物乱用頭痛だったりした場合、あるいは何らかの精神疾患と診断されていてその治療を受けている、または長期間にわたる薬物使用過多歴があるとMOHを再発しやすいとされています。

さらには独身者、失業者、コーヒー摂取が低い、心気症、うつ、パラノイア、恐怖、強迫性障害などの精神疾患があるということも関連性があるとされているので該当する人は注意してください。

スマホなどですぐに検索できる便利な世の中なのですが、情報はたくさんあって本当に正しい情報なのかの吟味が必要になっています。さらに正しい情報を受け取っていても、情報量が多いこともあってかメッセージを覚えていられないとか、正しく理解できていないとかで頭痛があるのだからとついつい鎮痛薬を飲んでしまうことなどが薬を飲み過ぎてしまう原因とも考えられています。日常の生活においては頭痛に対する薬剤の使用だけではなく、ストレス、毎日の喫煙、運動不足、肥満などに留意した生活を心がけていただき、飲み過ぎないように注意を払い続けることが大切です。

ただし、薬を飲み過ぎないようにと意識していただく一方で頭痛の回数が急に増えてきた場合には頭の中で別のことが起こっていないかの注意も必要です。この場合も痛み止めを飲むと頭痛が収まるものの、すぐにまた痛くなるという症状が続きます。このようなときに原因として考えられることは次のようなものが代表的です。一次性頭痛に二次性頭痛を併発することで頭痛回数が増えてしまう場合として、脳腫瘍や副鼻腔炎、甲状腺機能障害などがあります。これらは病院で頭部の検査を受けてみないと分からないので病院を受診してください。

いかがでしたか?
飲んでいる薬がよく効くからといって、飲みすぎていないかにも注意が必要ということを理解していただければ幸いです。スッキリとした日常を取り戻すために頑張ってください!

クリニックのホームページでも疾患の紹介を行っていますので、こちらも参考にしてみてください。

薬物乱用頭痛